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2019年10月10日木曜日

翻訳者になりたい人の夢を食い物にする商法

Facebookには、プロの通訳者と翻訳者のコミュニティーがあります。

最近、一部の翻訳者養成講座のやり方に関し、皆があきれ、驚きました。

講座の謳い文句は、
「短期間で翻訳家としてプロデビューできる」
「年収〇千万稼げる」
というものです。かなり無理があると思いませんか?

これから翻訳を始めようとする人は実績がゼロであり、応募できる翻訳会社が限られますが、実績を詐称するように講座が指導しているそうです。

さらに、講座の受講者は翻訳会社のトライアルの問題を共有し、集団カンニングを行っているそうです。

受講料は高額です。(一説では40万円。)

この講座では、「翻訳会社のトライアル合格=プロデビュー」ということになっています。しかし実際には、たとえトライアルに受かっても翻訳会社に登録されるだけで、仕事が回ってくるかどうかは別の話です。

日本翻訳連盟は、こうした講座に関し、法人会員の翻訳会社に警告を出したので、実績を詐称してもバレるようです。そうなると受講生は、いったい何のために大枚をはたいたのか分からなくなりますよね。

これから翻訳者を目指す人は、てっとり早い道はないものとあきらめ、下記のような信頼できる情報源を頼って道を探りましょう。

通訳翻訳ジャーナル
日本翻訳者協会(JAT)
日本翻訳連盟(JTF)

ちなみにJATの翻訳コンテストは、会員でなくとも無料で挑戦でき、1位~3位の受賞者はプロによる評価が無料でもらえます。

どうやって翻訳者になったか」というツイッターのまとめもありました。

翻訳者の営業の仕方などが分かるので、下記の本がおススメです。
Add

Chris Durban著、「The Prosperous Translator: Advice from Fire Ant & Worker Bee」


翻訳者として実力をつけたければ、とにかく専門分野の日本語と英語を読みまくるしかないと私は思います。

私が若かった遠い昔、翻訳者になるには10年かかると言われました。今はどうか知りませんが、英語に触れる方法はいくらでもあるので、もっと早いと推測されます。人脈が必要ならば、JATでボランティアをしたり(いつでもボランティアを募集していますので)、JTFの会合に行ってみてはどうでしょうか。

おもしろかったらクリックしてね♪

2019年10月8日火曜日

誤訳のリスクはどうする?

日本翻訳者協会で聞いた話ですが、ある医療翻訳者が薬の量について誤訳したため、患者が死亡したという事故があったそうです。これは誤訳のこわさを物語る極端な例で、ここまで深刻な話は他に聞いたことがありませんが、人間は神様でないので、どんな翻訳者でも間違うリスクはあるはず。それでは、誤訳のリスクにどう対処すればいいのでしょうか?

一般論として、リスク対策には「回避」、「緩和」、「転化」がありますので、これに沿って翻訳者と翻訳ユーザー(翻訳を発注するお客様)の両方の目線から考えていきたいと思います。


1.回避(そもそも誤訳をしない方法。)
翻訳者がとれる対策
  1. 何が危ない誤訳なのか判断できるだけの業界知識を持つ。どの業界にも法規制や実務慣行や科学的な常識があると思いますので、何年かかけて知識を吸収しましょう。ちなみに私の専門とするオルタナティブ投資の業界でも「やっていけないこと」がたくさんあり、資格試験を勉強する中でたたきこまれました。
  2. 自分が知らない分野は引き受けない。翻訳会社や顧客は、どんな分野でも仕事を振ってくるものです。自分の専門をはっきり伝えましょう。

ユーザーがとれる対策
  • 信頼できそうな翻訳者を探しましょう。


2.緩和(たとえ誤訳があっても、責任や被害を限定する。)
翻訳者がとれる対策
  • 受注する条件として、「翻訳の重大な瑕疵から生じた損害の賠償は、翻訳料金を上限とする」と決めましょう。
  • 良い参考例は、ATA(American Translators Association)の契約書のひな型で、自由にダウンロードできます。https://www.atanet.org/business_practices/translation_agreement_guide.pdf
  •  発注者と翻訳会社の中には、無制限の賠償責任を翻訳者に求めるところもありますが、これは危険なので避けましょう。私自身もそのような発注者と遭遇したことがありますが、交渉して条件を変えてもらいました。
  •  ちなみに、「賠償責任」以外の部分に関しては、日本翻訳連盟のひな型がよい参考になります。https://www.jtf.jp/jp/useful/report_bk/contract.html

ユーザーがとれる対策
  • 訳文を一字一句チェックするのは大変なので、業務に通じている担当者が内容の肝心なところだけチェックすることをお勧めします。


3.転化(たとえ誤訳があっても、自分が責任を負わない方法。)

翻訳者がとれる対策
  • 残念ながら、ありません。

ユーザーがとれる対策
年収1千万円を超える翻訳者は滅多にいないため、誤訳によってあなたの企業が損害を被っても、賠償する財力が翻訳者に無い可能性が高いです。
一般に、第三者に企業が情報を提供する際、以下のような例をよく見ます。これが対策になると思います。
  • 読み手の自己責任で情報を使用してもらう旨の文言を添える。
  • 特に英文契約書で、和訳はあくまで「参考」と位置づけ、法的な効力があるのは原文とする旨を謳う。
  • そもそも「原文自体の正確性を補償しない」と注釈を入れる。
  • さらに「原文に基づいて行動した結果被った損害を補償しない」と注釈を入れる。