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2024年10月26日土曜日

Working capital の和訳は何?

Working capital を運転資本と訳すべきか、運転資金と訳すべきか、どちらでもいいのか分からず、モヤモヤしていたため、情報を整理しました。その結果が以下です。


以上から、英和では、Working capital を 運転資本と訳すのがベストだという結論になりました。


和英の場合は、日本語の運転資本が Working capital または Net working capital であるという2つの可能性があり、文脈で判断する必要がありそうです。同様に、運転資金は Net working capital または operating costs and expenses のどちらかである可能性を考えた方がいいと思います。


ワーキング・キャピタルという用語も定着してきましたが、カタカナだらけの翻訳になるのをできるだけ避けたいと思っています。


参考:

CFI Education Inc. Net Working Capital

2024年6月1日土曜日

巷のひどい翻訳について考える


最近引き受けた翻訳依頼の2件は、印象的でした。


1件は、ある翻訳会社から納品されたものがあまりにも粗悪だったため、手直ししてほしいというものです。ちょっと見ただけでも原文の「増加」を「減少」と真逆に訳していたり、専門知識のなさを露出する誤訳がありました。


結局、それは最初から改めて訳した方が早くて安い、という結論になりました。


もう1件は、依頼主が英語圏の人で、自社の和訳に対するクレームが多いため、チェックしてほしい、とのことでした。確かに文法から業界事情まで、理解が不足しているらしい人の翻訳です。私は、何がどう間違っているのかを英語で説明し、和訳をほぼ全面的に修正しました。


今までも、びっくりするような、ひどい誤訳はさんざん見てきました。(たまに素晴らしい翻訳にも出会いますが。)


翻訳業界は、このままで良いのだろうか、私にできることはないだろうか、などと悩んだりもします。心情的には、苦しんでいる人が道端にバタバタ倒れているのに、知らんぷりして素通りしていいのか、というような。。。何か世間に発信できないだろうか?これまで見てきた誤訳を面白おかしく列挙して、ウェブで暴露してやろうか、などとも考えました。


しかし、一介のフリーランス翻訳者が業界全体を変革できるとは思えません。自分の生活を賄うだけでも大変なのに。


そこで昔のことを思い出しました。私が社内翻訳をしていた頃、ひどい翻訳をしていた人たちが二人いました。この人たちは英語が得意だったものの、翻訳対象の商品やサービスについて知ろうしなかったため、社内での評価が低かったのです。二人のその後を見ると、今は翻訳でない仕事をしています。


要するに、市場は粗悪なものを淘汰するのです。


他の業界を見ても、例えば、戦後間もない日本では安いアルコールを後から混ぜた粗悪なウイスキーが販売されていたそうです。そのようなウイスキーは、時代と共に消滅し、一方でずっと真面目にやってきたサントリーが今は「山崎」というブランドで世界一と称賛されています。


ですので、フリーランスの翻訳者は、ひどい翻訳をする他の翻訳者や翻訳会社を非難したり攻撃することに時間とエネルギーを使わず、その代わりに自分の翻訳の質を高める努力(語学と専門知識の勉強)をした方が、長い目で見れば効率が良いのではないかと、今は思っています。

2023年6月27日火曜日

有価証券をmarketable securitiesと訳すのは止めましょう!

昔は、金融商品といえば、もっぱら株式と債券だったので、

「有価証券」=「marketable securities」

でも問題が無かったのです。


しかし、最近になって商品の種類が増えたため、これが成り立たなくなってきました。


結論から言うと、

「有価証券」= 「securities」 が正しいでしょう。


DeepLやアルクの辞書も、古い翻訳慣習を引きずっているようなので要注意です。


解説しますと、marketableとは、「取引市場ですぐに売って現金に換えられる」という意味です。

しかし有価証券のなかでも、ヘッジファンド、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルの持分証券は、原則、取得したらファンド期間の最後(10年間ぐらい)まで保有し続けるものなので、簡単にどこかで売ることができません。これらはmarketableではないのです。


参考:Investopedia. Marketable Securities



2023年4月13日木曜日

手作りの英語ホームページで翻訳の仕事を海外から受注できた話

日本に住みながら海外の顧客から翻訳の仕事をもらいたい。

そう思って英語のホームページを作りました。

開設から1年半も待った結果、ようやく最近、数十万円相当の受注につながりました。

「私もチャレンジしたい」と思う方のため、以下に自分の体験を書きます。

 

おそろしく少ないアクセス数 

サイト開設時からのアクセスは以下のとおりです。


アクセスが11件あるかないかで、これで仕事が来たのが不思議なぐらいです。

しかし、よく考えてみれば、私のサイトは不特定多数の人向けではありません。お客さんの業種、分野、翻訳の用途をきわめて狭く絞っています。

そして私は個人の翻訳者なので、ホームページから新規顧客が1年に1社来てくれるだけでも十分に助かるのです。

新規のお客さんがリピート客になってくれる可能性もあります。

 

海外のお客さんに直接売り込みたいと思った理由

 

1.荒れている国内翻訳市場

英語のできないお客さんは、「安い方がうれしい」と感じている様です。それ以外に判断基準がないからです。

特に今は日本の景気が悪いので、翻訳コストを削減すれば会社の利益になるため、相見積もりを取って安いところを探しています。

低価格競争の中で翻訳は低品質化に向かうしかありません。私から見て、「これは…!」とあきれた翻訳もずいぶん見ました。

もはや翻訳者を信用しなくなったお客さんにも会いました。つまり、翻訳者が仕事欲しさに、できない仕事もできるとウソをつくというのです。「正直に言ってくれ方が助かります」と顧客から言われました。

その一方、英語のできるお客さんは自分で翻訳してしまいます。その方が速いからです。

コロナのせいで予算が減り、外注を止めて社員が翻訳するようになったところもあります。

総じて、国内で和訳のサービスを売ることは「エスキモーに氷を売る」に近いと私は考えています。日本人は教育レベルが高く、ある程度は英語ができるし、AI翻訳も精度が上がってきました。翻訳者は過当競争を避け、海外に打って出るべきだと思います。


2.日本のお客さんは意思決定が遅い

発注担当者は、取り次ぐだけで発注を決定する権限がないことがよくあります。上司の決済をもらわねばなりません。そういう事情なので、私としては見積もりの期限を長く設定してあげるのですが、待っている間に別の問い合わせが来て、そちらを断ると、先の問い合わせも結局折り合いがつかなかったりして、商機を逃してしまいます。その点、海外のお客さんは即決してくれることが多いので、大助かりです。


3.今が海外に売り込むチャンス

やはり営業は対面が一番効果的だと思うのですが、海外の場合はそうそう訪問するわけにもいきません。しかし、コロナのおかげで、リモートで注文する習慣が根付いた気がします。さらに円安だし、日本は物価は安いので、ドル建てで払ってもらう場合、海外のお客さんにとって割安感があるはずです。


4.海外のお客さんからフィードバックがもらえる

分からないことがあった場合、または原文のミスを見つけた場合、海外のお客さんにメールすれば、大抵はすぐに答えてくれるので助かります。これに反し、日本の現地法人が間に入る場合、「何か分からないことがあったら聞いてください」と言ってはくれるものの、そもそも短い納期を要求してくるので、質問していたら約束の納期に間に合わないのです。

 

ウエブサイトの英文は完璧でなくていい

私は英日翻訳者で、英語ネイティブではありません。英語は、海外の顧客と意思の疎通ができる程度に書ければよいと思っています。

したがって、英語でウエブサイトやブログを書くときはネイティブチェックを誰にも頼みません。どのみち海外から問い合わせがきたときに、英語で返答するので、そこで英語力が分かってしまいます。だったら初めから限界を知ってもらった方が、信頼されるかと思います。

ただし文法をチェックしてくれる無料のアプリがあるので、それは利用しています。

 

お金はできるだけかけたくない

私は日本語のホームページを持っています。それに英語のページを追加すれば一番安いのですが、英語を入力すると、単語の変なところで改行してしまうので、英語ページの追加は止めました。

新たにホームページを外注すると数十万以上かかってしまうため、手作りにしました。これによって年間費用は、トータルで3万円ぐらいで済みます。内訳は以下のとおり。

  • メールアドレス代:9,768
  • サイト代:19,800
  • ドメイン代:3,080


合計:32,648

プラス、作成時に参考にした本の費用:6,867


ただし、自分の人件費は費用に入れていません。

 

簡単に作りたい

コードを書かなくてもウエブサイトが簡単に作れるアプリを提供する業者がいろいろありますが、私は大手の Wix.com を選びました。

デザインはテンプレートを使えば手っ取り早いのですが、より自由度の高いブランクの形式から始めました。

 

何をどう書けばいいか

「英語ウエブサイトの構成と発想は日本語ウエブサイトと違う」と、英語ネイティブの知り合いの翻訳者が言っていました。

日本語のホームページを単に英訳すれば良い、というわけではないようです。

そこで、コンテンツとデザインを考えるにあたり、以下の本を参考にしました。

 

こうした過程を経て出来上がった私のホームページは、こんな感じです。

https://www.kimoto-alternative-investment-translations.com

 

最後に

私のサイトの場合、Google 検索で人目に触れるまでに、1年ぐらいかかったと思います。長期戦の覚悟でいた方が良いと思います。

問合せがあったならば、相手がちゃんとお金を払ってくれそうかどうか確認する必要もあります。

例えば、米国の金融業界の投資ファンドならば、米国証券取引委員会(SEC)に登録されているので、信頼性をチェックできます。

またLinkedInCompany pageその他、複数の第三者サイトで信頼性を確認したり、自分の直感で判断する必要があります。海外のお客さんから不払いになった場合、救済手段はほぼ無いと思います。 

さらに、これからキャリアを始めようとする方が翻訳者になることを私はお勧めできません。おそらくAI翻訳のチェックが主流になると予想するからです。やるとすれば、ニッチな専門分野で副業として翻訳するならば、面白みがあるかなと思います。

ベテラン翻訳者のみなさん、どう思いますか?


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2023年1月13日金曜日

イスラエルと日本をつなぐ人 –– ガル・ベレット(Gal Vered)氏


最近私は、イスラエルのスタートアップ企業を紹介する文章を翻訳する仕事に関わり、それに関連し、ガル・ベレット(Gal Vered) さんという方に会いました。彼はなんと、日本語も英語もヘブライ語も流暢なのです。本業は、国境を越えたビジネス・マッチングで、翻訳や通訳もされるとのこと。いったいどんなふうに、お仕事をするのでしょうか?大変興味深いので、お話を聞いてみました。

 

日本とイスラエルは近くなる

20233月から日本―イスラエル間の直行便が就航し、11時間で行けるようになります。マスメディアの影響で「中東はこわい」というイメージがあるかもしれませんが、イスラエルの治安はそれほど悪くなく、気候や食べ物も良いし、技術立国なので、ビジネスチャンスもあります。

 ベレットさんは最初、海外の知人や友人から、日本の取引相手との仲介を頼まれていたのですが、それが度重なったことから「事業として成り立つのではないか」と考え、ビジネス・マッチングに特化した株式会社ノゾミを10年前に起ち上げました。

 

ビジネス・マッチングは楽ではない

仲介キャリア30年のベレットさんといえども、様々な苦労があるようです。例えば、

  • 日本企業の品質へのこだわりが高すぎる。アメリカ人ならば、多少何かが歪んでいても気にしないのに、日本企業はクレームを出す。
  • 日本人のサービスへの期待。日本企業はトラブルがあったら、すぐに対応することを期待するが、海外企業との取引では、時差があって難しい。
  • 日本人はミーティングで、面と向かって相手に本音を言わない。ベレットさんは、後から一緒に食事するなどして、本心を聞き出す工夫もするそうです。

対立が起こると、どちらの言い分に筋が通っているのかがはっきりせず、グレイなこともあるそうです。

仲介業は、グローバルな人脈、貿易・海運・物流の知識、国際取引の経験が要るため、ある程度齢を重ねないと良い仕事ができないそうです。

 

イスラエルの技術

ベレットさんが日本の代理業者となっている Keter Group は、世界最大の樹脂材消費財メーカーです。同社は現在、環境に優しい樹脂製品を開発中。

さらにベレットさんがアドバイザーを務めるCorundum は、日本とイスラエルの両国に拠点を持つ唯一のベンチャーキャピタルで、そのアドバイザリーボードには、ノーベル賞受賞者がいます。

イスラエルは農業のバイオテクノロジーも進んでいます。なにせ砂漠で食料を生産しているのですから。食料自給率を上げたい日本にとって、学ぶことがあるかも知れません。

 

株式会社ノゾミは、フットワークが軽い

ベレットさんはヨーロッパを訪問する日本企業に随行することもあるそうです。英語を話せる人材が不足する会社ならば助かるはず。

どんなに商品が良くても、「この人たちと取引したくない」と思われたらアウトなので、忍耐強く人間関係を築くことが肝心です。

「話を聞きたい」という私のリクエストにもすぐに応じてくれ、横浜で1時間ほど会ってくれました。その日の午後に関西に出張するという忙しさにもかかわらず、私の質問に対して嫌な顔一つせず、忍耐強く答えてくれました。

 

「どちらの側にもつかない」というポリシー

企業同士が提携する場合、短期的な利益がメインではなく、技術が次のステップにつながるかどうかという長期的な戦略が大事とのことです。

イスラエルに強みがあり、日本に貢献できそうな分野で、ベレットさんが理解する業界と商品ならば対応可能だそうです。

ベレットさんは、対立が起こったとき、どちらの見方もしません。つまり、必ずしもベラドさんにお金を払う側につくとは限らないのです。双方が満足しないと長い付き合いにならないからです。正直さ、理解、信頼を土台として「衆望を担う」のがポリシーです。 

  

翻訳者に伝えたいこと

ベレットさんが3か国語で経済誌やSNSを読んでいて気付いたのは、ある言語の記事が別の言語に勝手に翻訳され、インターネットに載っている場合があることです。これは違法行為です。翻訳者は自分でもやらないようにし、頼まれたら断るようにしましょう。パクリは、ばれます! 


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株式会社ノゾミ


231-0849 横浜市中区麦田町1-4-403

代表取締役:ガル・ベレット(Gal Vered)氏

ベレットさんは、日本とイスラエルの両方に生活基盤があり、奥さんはイスラエル在住、2人のお子さんはフランスとオーストリア在住という国際派。親戚がイタリアとベルギーにいらっしゃるそうです。世界中の穴場を知っていそうな感じですね。

ベレットさんはメールではビジネスライクですが、お会いしてみると物腰が柔らかな方という印象で、世界史を語り出せば止まらない知的な方でした。