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2025年2月11日火曜日

「流通利回り」は英語で何と言うのでしょうか?


 「流通利回り」は保険契約において登場することがあります。この意味についてオンラインで調べると、「流通市場で債券を購入し、満期まで保有した場合の利回り」と説明されているものをいくつか見つけました。


しかし、ここで疑問が生じました。それでは「最終利回り」と同じ意味ではないでしょうか?何が違うのか、もし同じ意味だとすれば、なぜ異なる呼び名が2つ存在するのでしょうか?


「最終利回り」の意味を調べると、「流通利回り」とほぼ同じ説明が出てきますが、「償還差損益を含む」という文言が追加されています。これが気になる点です。


かなりの時間を費やして調べ、確信を持てるわけではありませんが、以下のような結論に至りました。

意味自体は同じであるものの、何を強調したいかによって使い分けがされているようです。


つまり、「流通利回り」は「応募者利回り」と対比して使われるようです。債券を購入した市場が、前者が流通市場、後者が発行市場である点が異なります。


一方で、「最終利回り」は「所有期間利回り」と対比して使われるようです。保有期間が、前者が満期まで、後者が売却時までという点が異なります。


そのため、保険契約内では「流通利回り」を使用することで、「応募者利回り」ではないことを強調したいのではないかと考えられます。


さて、肝心の英訳ですが、私のおすすめは以下の通りです:

流通利回り → yield to maturity (YTM)

これに対する「応募者利回り」は、yield to maturity (YTM) at issue となります。


ちなみに、アルクのオンライン辞書では「流通利回り」を「distribution rate」や「distribution yield」と訳していますが、これらは違うように思います。


さらにChatGPTに聞いてみると、「流通利回り」=「直接利回り」と説明しており、これも違うと思います。



2024年11月8日金曜日

同じ言葉なのに真逆の意味を持つ英単語2選

 

1. Lease

リースを動詞で使う場合、「貸す」という意味と「借りる」という意味の両方の場合があります。


例:

  • The private equity fund leases aircraft to airlines. 

このプライベートエクィティ・ファンドは航空機を航空会社にリース契約で貸している

  • The factory leases the equipment from the manufacturer.

この工場では、設備や機器をメーカからリース契約で借りている


おもしろいことに、日本語でも「リースする」は、「貸す」と「借りる」の両方の意味で使われているようです。


2. Sanction

この「sanction」という英語も、「正当と認める」という意味と「問題があるので、制裁措置を取る」という真逆の意味であちこちに登場します。


なにか、モヤモヤ感があって、翻訳者としては「どっちかに統一してくれ!」と言いたくなります。しかし、言葉は自然発生的に起こるもの。なので、こういう単語に関しては、前後の脈絡で判断することが、ますます重要になるでしょう。

2024年10月26日土曜日

Working capital の和訳は何?

Working capital を運転資本と訳すべきか、運転資金と訳すべきか、どちらでもいいのか分からず、モヤモヤしていたため、情報を整理しました。その結果が以下です。


以上から、英和では、Working capital を 運転資本と訳すのがベストだという結論になりました。


和英の場合は、日本語の運転資本が Working capital または Net working capital であるという2つの可能性があり、文脈で判断する必要がありそうです。同様に、運転資金は Net working capital または operating costs and expenses のどちらかである可能性を考えた方がいいと思います。


ワーキング・キャピタルという用語も定着してきましたが、カタカナだらけの翻訳になるのをできるだけ避けたいと思っています。


参考:

CFI Education Inc. Net Working Capital

2024年6月1日土曜日

巷のひどい翻訳について考える


最近引き受けた翻訳依頼の2件は、印象的でした。


1件は、ある翻訳会社から納品されたものがあまりにも粗悪だったため、手直ししてほしいというものです。ちょっと見ただけでも原文の「増加」を「減少」と真逆に訳していたり、専門知識のなさを露出する誤訳がありました。


結局、それは最初から改めて訳した方が早くて安い、という結論になりました。


もう1件は、依頼主が英語圏の人で、自社の和訳に対するクレームが多いため、チェックしてほしい、とのことでした。確かに文法から業界事情まで、理解が不足しているらしい人の翻訳です。私は、何がどう間違っているのかを英語で説明し、和訳をほぼ全面的に修正しました。


今までも、びっくりするような、ひどい誤訳はさんざん見てきました。(たまに素晴らしい翻訳にも出会いますが。)


翻訳業界は、このままで良いのだろうか、私にできることはないだろうか、などと悩んだりもします。心情的には、苦しんでいる人が道端にバタバタ倒れているのに、知らんぷりして素通りしていいのか、というような。。。何か世間に発信できないだろうか?これまで見てきた誤訳を面白おかしく列挙して、ウェブで暴露してやろうか、などとも考えました。


しかし、一介のフリーランス翻訳者が業界全体を変革できるとは思えません。自分の生活を賄うだけでも大変なのに。


そこで昔のことを思い出しました。私が社内翻訳をしていた頃、ひどい翻訳をしていた人たちが二人いました。この人たちは英語が得意だったものの、翻訳対象の商品やサービスについて知ろうしなかったため、社内での評価が低かったのです。二人のその後を見ると、今は翻訳でない仕事をしています。


要するに、市場は粗悪なものを淘汰するのです。


他の業界を見ても、例えば、戦後間もない日本では安いアルコールを後から混ぜた粗悪なウイスキーが販売されていたそうです。そのようなウイスキーは、時代と共に消滅し、一方でずっと真面目にやってきたサントリーが今は「山崎」というブランドで世界一と称賛されています。


ですので、フリーランスの翻訳者は、ひどい翻訳をする他の翻訳者や翻訳会社を非難したり攻撃することに時間とエネルギーを使わず、その代わりに自分の翻訳の質を高める努力(語学と専門知識の勉強)をした方が、長い目で見れば効率が良いのではないかと、今は思っています。

2023年6月27日火曜日

有価証券をmarketable securitiesと訳すのは止めましょう!

昔は、金融商品といえば、もっぱら株式と債券だったので、

「有価証券」=「marketable securities」

でも問題が無かったのです。


しかし、最近になって商品の種類が増えたため、これが成り立たなくなってきました。


結論から言うと、

「有価証券」= 「securities」 が正しいでしょう。


DeepLやアルクの辞書も、古い翻訳慣習を引きずっているようなので要注意です。


解説しますと、marketableとは、「取引市場ですぐに売って現金に換えられる」という意味です。

しかし有価証券のなかでも、ヘッジファンド、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルの持分証券は、原則、取得したらファンド期間の最後(10年間ぐらい)まで保有し続けるものなので、簡単にどこかで売ることができません。これらはmarketableではないのです。


参考:Investopedia. Marketable Securities