一般論として、リスク対策には「回避」、「緩和」、「転化」がありますので、これに沿って翻訳者と翻訳ユーザー(翻訳を発注するお客様)の両方の目線から考えていきたいと思います。
1.回避(そもそも誤訳をしない方法。) |
- 何が危ない誤訳なのか判断できるだけの業界知識を持つ。どの業界にも法規制や実務慣行や科学的な常識があると思いますので、何年かかけて知識を吸収しましょう。ちなみに私の専門とするオルタナティブ投資の業界でも「やっていけないこと」がたくさんあり、資格試験を勉強する中でたたきこまれました。
- 自分が知らない分野は引き受けない。翻訳会社や顧客は、どんな分野でも仕事を振ってくるものです。自分の専門をはっきり伝えましょう。
ユーザーがとれる対策
- 信頼できそうな翻訳者を探しましょう。
2.緩和(たとえ誤訳があっても、責任や被害を限定する。) |
- 受注する条件として、「翻訳の重大な瑕疵から生じた損害の賠償は、翻訳料金を上限とする」と決めましょう。
- 良い参考例は、ATA(American Translators Association)の契約書のひな型で、自由にダウンロードできます。https://www.atanet.org/business_practices/translation_agreement_guide.pdf
- 発注者と翻訳会社の中には、無制限の賠償責任を翻訳者に求めるところもありますが、これは危険なので避けましょう。私自身もそのような発注者と遭遇したことがありますが、交渉して条件を変えてもらいました。
- ちなみに、「賠償責任」以外の部分に関しては、日本翻訳連盟のひな型がよい参考になります。https://www.jtf.jp/jp/useful/report_bk/contract.html
ユーザーがとれる対策
- 訳文を一字一句チェックするのは大変なので、業務に通じている担当者が内容の肝心なところだけチェックすることをお勧めします。
3.転化(たとえ誤訳があっても、自分が責任を負わない方法。) |
翻訳者がとれる対策
- 残念ながら、ありません。
ユーザーがとれる対策
年収1千万円を超える翻訳者は滅多にいないため、誤訳によってあなたの企業が損害を被っても、賠償する財力が翻訳者に無い可能性が高いです。
一般に、第三者に企業が情報を提供する際、以下のような例をよく見ます。これが対策になると思います。
- 読み手の自己責任で情報を使用してもらう旨の文言を添える。
- 特に英文契約書で、和訳はあくまで「参考」と位置づけ、法的な効力があるのは原文とする旨を謳う。
- そもそも「原文自体の正確性を補償しない」と注釈を入れる。
- さらに「原文に基づいて行動した結果被った損害を補償しない」と注釈を入れる。